院長ブログ

健康診断で「血糖高値」や「境界型」と言われたら?

2025.06.12


はじめに

健康診断の結果票を見て

「空腹時血糖が少し高いですね」「HbA1cが基準を超えています」と言われた経験はありませんか?
そんな時に見かけるのが「境界型」や「血糖高値」という表現。
「まだ糖尿病じゃないから大丈夫」と思って放置していませんか?

実はこの状態、“今すぐ行動すれば将来の糖尿病を防げる最後のチャンス”なのです。

この記事では、境界型とは何か?なぜリスクが高いのか?

そして当院の専門医による診療でどんなサポートができるのかを、信頼性のある文献のエビデンスに基づいてご紹介します。


境界型・血糖高値とは?まずは診断基準を確認

日本糖尿病学会では、血糖異常の診断に以下の基準を用いています。

検査項目 正常型 境界型(耐糖能異常) 糖尿病型
空腹時血糖(FPG) ~109 mg/dL 110~125 mg/dL ≧126 mg/dL
75gブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値 ~139 mg/dL 140~199 mg/dL ≧200 mg/dL
HbA1c ~5.5% 5.6~6.4% ≧6.5%

つまり、「境界型」とは、血糖が明確な糖尿病型ではないものの、正常から逸脱している状態を指します。

多くの場合、自覚症状はなく、健康診断で初めて気づく方がほとんどです。


境界型を放置するとどうなる?文献が示す重大なリスク

糖尿病発症リスクが最大30倍以上に

東京の虎の門病院で実施された大規模コホート研究では、HbA1c 5.7〜6.4%、または空腹時血糖が100〜125mg/dLというごく軽度の異常であっても、将来的に糖尿病へ進行するリスクが大幅に増加することがわかりました。

特に、両方の基準を満たしている人では、発症リスクが31.9倍に達するとされています(Heianza et al., 2011)

すでにインスリンの分泌が落ち始めている

北海道大学の研究では、健診で境界型と判定された人でも、すでに膵臓のインスリン分泌機能が低下していることが、Disposition Index(DI)という指標で明らかになりました。

この変化は血糖値が大きく上がる前から始まっており、「正常」と「糖尿病」の中間にある“見えない危険地帯”であることが分かります(Takeda et al., 2017)

心臓病やがん、認知症のリスクも上がる

前糖尿病(境界型)というだけで、がんによる死亡率が2.37倍、全死亡率も1.53倍に増加していたという衝撃的なデータもあります。

これは62,000人以上の日本人労働者を対象にした研究で報告されました(Islam et al., 2021)

また別の研究では、境界型の人でも高血圧・脂質異常・肥満といった動脈硬化のリスク因子を高率に合併していることが分かっており、心筋梗塞や脳卒中の前兆と捉える必要があります(Namekata et al., 2014)

レガシーエフェクト(Legacy Effect):最初の数年が未来を決める

いくつかの大規模研究(UKPDS、DCCTなど)では、糖尿病の初期段階でしっかり血糖コントロールすることで、数十年後の合併症発症リスクが減少するという「レガシーエフェクト(遺産効果)」が確認されています。

  • HbA1cを診断時から1%下げることで、10年後に全死亡率が18.8%、心筋梗塞リスクが19.7%低下するという解析もあります (Lind et al., 2021)
  • 一方で、糖尿病が進行してから治療を始めた場合は、その恩恵が著しく小さくなる(7分の1以下)とも報告されています。

このことから、「血糖が少し高い“今”だからこそ介入することに、大きな価値がある」ということが分かります。


なぜ今、専門医の診察が必要なのか?

当院は、「糖尿病専門医」在籍クリニックです。

境界型の段階から専門医が関わることで、以下のような個別管理が可能になります:

  • 精密な検査:インスリン分泌能、脂質、腎機能、動脈硬化の有無を総合評価
  • 最新ガイドラインに基づいた治療方針:必要に応じてメトホルミンなどの薬物介入を早期から検討
  • 合併症予防:網膜症、腎症、神経障害などの早期スクリーニングと予防
  • 管理栄養士による栄養指導

尚、定期通院をしている人ほど心血管疾患の発症率が有意に低いことが明らかになっています(Murai et al., 2024)



今すぐ始めたい4つの行動


1. 主食を見直す:主食の量・質+栄養バランスの改善

前糖尿病の改善には「主食だけ」ではなく、全体の食事バランスを見直すことが重要です。

  • 精製された主食(白米・食パン)を、血糖値を上げにくい食品(玄米・雑穀米・野菜)に置き換える
  • 野菜やたんぱく質(魚・豆・卵)を先に食べることで血糖の急上昇を防ぐ
  • 食事のタイミングや内容を意識する(例:夜遅い食事や間食の見直し)

➡ 日本人を対象とした研究では、こうしたバランスの取れた食事内容の改善によってHbA1cや空腹時血糖が有意に改善しています
(Yamatsu et al., 2016)


2. 毎日30分のウォーキングから始める

特別なトレーニングは不要。1日30分の歩行や軽い運動の習慣だけでも、インスリンの効き目が良くなり、血糖コントロールに効果的です。

  • 日本人の生活習慣改善プログラムでは、身体活動量が増えることでHbA1cの改善が確認されました
    (Sakane et al., 2011)

3. 肥満(BMI25以上)がある方は体重を3%減らすだけでも大きな効果

体重を少し減らすだけで、血糖の改善や糖尿病への進行を抑えることができます。

特に内臓脂肪が多い方は要注意。

  • 日本人男性の研究では、体重を4.3%以上減量した人で、糖尿病の発症率が約80%減少しました
    (Iwahashi & Imagawa, 2016)

4. 定期的な検査で“変化の兆し”を早期キャッチ

血糖値やHbA1cは、一度の数値よりも「推移」が重要です。
定期的にチェックしていれば、悪化の兆候を早めに見つけ、対処できます。

  • 日本の大規模研究(J-DOIT1)では、保健指導と定期フォローにより糖尿病の進行が有意に抑えられました
    (Sakane et al., 2013)

まとめ

境界型・血糖高値と診断されたときこそ、「変えられる未来」に向けて動き出すチャンスです。
食事・運動・体重・検査の4本柱を意識しながら、無理なく、でも確実に体を整えていきましょう。

当院では、専門医によるサポートで、こうした生活改善を一人ひとりに合わせて丁寧にお手伝いしています。

お気軽にご相談ください。