院長ブログ

血圧は「高くなってから」では遅い?――日本の最新ガイドラインが勧める“早めの受診”の理由

2025.12.17

こんにちは。ながお内科クリニック院長の長尾一寛です。
健診やご自宅で血圧を測って「少し高いかも」「症状はないし様子見でいいのかな」と迷う方は少なくありません。

ただ、高血圧は症状が出にくいまま血管に負担が蓄積し、脳卒中や心臓・腎臓の病気につながりうるため、「気になった段階で評価する」ことに意味があります。


最新ガイドライン(JSH2025)は“目標”をシンプルに

日本高血圧学会は、JSH2025の内容に基づく一般向け資料として「高血圧の10のファクト」を公表し、**降圧目標を“130/80 mmHg未満”と示しています。 日本高血圧学会
ここで大切なのは、
「診断されたら薬」**ではなく、生活習慣も含めて「どう管理していくか」を早い段階から考える流れがより重視されている点です。


「診断基準」と「目標値」は別ものです

高血圧の診断の目安として、一般に

  • 診察室血圧:140/90 mmHg以上
  • 家庭血圧:135/85 mmHg以上
    が用いられます。

一方で、JSH2025が示す「目標」は、これより低い水準(130/80未満)を意識して、将来のリスクを下げることを狙っています。 日本高血圧学会
そのため「まだ診断基準に届いていないから受診不要」とは必ずしも言い切れません。


家庭血圧の重要性

血圧は、病院だと緊張で上がる(白衣効果)こともあれば、病院では正常でも日常生活では高い(仮面高血圧)こともあります。だからこそ、家庭血圧の確認はとても重要です。

日本の大規模地域研究として知られる大迫研究(Ohasama Study)では、家庭血圧(院外血圧)が心血管リスクをよく反映し、診察室血圧より予後予測に優れることが示されてきました。 J-STAGE

つまり、

  • 家で測ると高い日が続く
  • 朝と夜で差が大きい
  • 健診では「高め」だった
    といった段階で、「一度相談して整理する」価値があるということです。

早めの管理が大切な理由

降圧をしっかり行うことで心血管イベントが減ることは、大規模臨床試験でも示されています。たとえばSPRINT試験では、(対象条件はありますが)より厳格な収縮期血圧目標を目指す群で主要心血管イベントや死亡が少なかったことが報告されています。 The New England Journal of Medicine
JSH2025が「目標を意識した管理」を強調する背景には、こうしたエビデンスの積み重ねがあります。


受診=すぐに薬、ではありません

血圧が高めでも、状況によって方針は変わります。受診のメリットは、薬を出すことだけではなく、たとえば

  • 測定方法が適切か(測る時間帯・姿勢・回数)
  • 一時的な上昇か、慢性的な上昇か
  • 生活習慣(塩分、体重、運動、睡眠、飲酒、ストレスなど)のどこを優先して整えるべきか
  • すぐ治療が必要なタイプか、まず生活改善でよいか

医学的に整理できる点にあります。


食事について、専門職に相談できる体制

血圧管理では食事(特に減塩や体重管理)が重要です。
当院では、病状や生活背景をふまえて医師が必要と判断した場合、管理栄養士による栄養指導を(保険診療として)行うことが可能です。

「減塩が大事と言われても、何をどう変えればいいかわからない」
「外食やコンビニが多い」
「家族と同じ食事を続けたい」
こうした悩みはとても現実的です。続けられる形に落とし込むために、一緒に工夫を考えていきます。


まとめ:こんな時は、早めに相談してください

  • 家庭血圧で 135/85 mmHg以上が続く
  • 健診で「高め」「要経過観察」と言われた
  • 病院では正常でも、家では高い気がする(仮面高血圧が心配)
  • 糖尿病・脂質異常症・腎機能低下などがあり、血管リスクが重なっている

血圧は、“気になった時点”が見直しのチャンスです。お気軽にご相談ください。


参考文献

  • 日本高血圧学会「高血圧の10のファクト(JSH2025に基づく)」:降圧目標 130/80 mmHg未満 日本高血圧学会
  • 大迫研究(Ohasama Study)/院外血圧の予後予測に関する総説(Tohoku J Exp Med 2023) J-STAGE
  • 家庭血圧と心血管リスク(Hypertension 2013) AHA Journals
  • SPRINT試験(NEJM 2015, 2021):A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control The New England Journal of Medicine