院長ブログ

お酒を飲まないのに脂肪肝?それは“MASLD”かもしれません

2025.09.15

こんにちは。ながお内科クリニックの院長、長尾一寛です。
健康診断で「脂肪肝」と言われた方へ——

今回は、近年注目されている**MASLD(マッスルディー)**という病気について、わかりやすくご紹介します。


「脂肪肝ってお酒を飲む人の病気じゃないの?」と思われるかもしれません。
実は、お酒をあまり飲まない方でも、生活習慣によって肝臓に脂肪がたまる病気が増えており、その代表がこの**MASLD(代謝機能障害に関連した脂肪性肝疾患)**です。
MASLDは、1つ以上の代謝リスク(肥満、糖尿病、脂質異常など)を有する人に認められる脂肪肝で、飲酒の有無よりも代謝異常が本質的な原因とされています (Sandireddy et al., 2024)


NAFLD → MASLD に名前が変わりました

これまで「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」と呼ばれていた病気は、2023年以降、国際的な議論の末「MASLD(Metabolic dysfunction–associated steatotic liver disease)」という名称に変更されました。
この名称変更は、「アルコールを飲まないこと」ではなく、「代謝異常の存在」を定義の中心に据えるためです (Corrao et al., 2024)


MASLDは放っておくと肝硬変や肝がんの原因にも

MASLDは、以下のような背景がある方に多く見られます:

  • 肥満や内臓脂肪の蓄積
  • 2型糖尿病または境界型血糖
  • 高血圧や脂質異常症(中性脂肪・LDLコレステロール)
  • 運動不足や偏った食生活

この病気は最初は無症状ですが、進行すると肝炎(MASH)→肝線維化→肝硬変・肝がんへと進展することがあります。
肝線維化の進行は、心血管疾患や腎機能障害のリスクを高めることが報告されています (Sandireddy et al., 2024)(Adinolfi et al., 2025)

MASLDの人は、肝がんだけでなく大腸がんや膵がんなどの「肝外がん」リスクも上昇することが指摘されています (Pirvu et al., 2025)


早期からの対策で進行を防げます

MASLDの治療は、まずは生活習慣の見直しが基本です。
体重の5〜10%の減量で、肝脂肪や線維化の改善が見られることが研究で示されています (van Son et al., 2024)

糖尿病や脂質異常症の管理は、MASLDの進行を防ぐ上で極めて重要です (Katsiki et al., 2025)


当院でできること

ながお内科クリニックでは、以下のようなサポートを行っています:

  • 血液検査・超音波検査による肝機能評価
  • **肝線維化マーカー(FIB-4 indexなど)**を用いた進行度の評価
  • 高性能エコー装置「ARIETTA 650 DeepInsight SE(フジフィルム社製)」を導入し、AIを活用した詳細な肝臓の画像描出が可能です。
    • Shear Wave Elastographyによる肝硬度(kPa値)測定も行っており、線維化の進行度を非侵襲的かつ高精度に評価できます。
    • この検査は痛みがなく、わずか数分で終了します。
      肝硬度評価は、MASLD患者の線維化進行度の把握や治療判断に有効とされています (van Son et al., 2024)
  • 管理栄養士による生活習慣改善のアドバイス
  • 必要に応じて、大学病院との連携による精密検査や治療

脂肪肝は「そのうち治る」と思われがちですが、**“代謝異常と関連した慢性疾患”**として、しっかり向き合うことが大切です。
気になる方は、ぜひ早めにご相談ください。


引用文献